「備前の土は,世界一」と評したのは北大路魯山人であるが、釉薬をかけない焼き締め陶である備前焼は、その土質のすばらしさで現在まで高い技術を守りつづけることができたともいえよう。
焼成することによって得られる備前土の表情は,作家のみならず、手にとって使う人々にも愛着のわくものである。
“土”そのもののざらざらした感触は懐かしさにあふれ、自然そのものの風合いはとてもやさしい。持つ愉しみ、使う悦びが感じられるやきものである。
備前焼に使われる土は、山土、田土(ひよせ)、黒土の主に三種類である。
伊部周辺の山塊に広く分布している石英粗面岩質が元の位置で風化したもの。
山土が流水で運ばれ二次堆積したもの。きめが細かく粘土としての質は非常に高い。
田土より有機質を多く含む状態で邑久郡長船町磯上周辺に堆積したもの。
可塑性・粘着 性に富むが,耐火度が低い。
最も混合比率が高いものが田土で、伊部~香登付近の水田下に堆積しているが、かなり少なくなっている。
■堆積した粘土を農閑期に堀り、乾燥、粉砕、浸水して溶かす。
■こうしてできた泥しょうを素焼きの鉢に入れて水分を抜く。
■作家の好みでブレンドされ砂粒が取り除かれる。
自然の中に眠っていた良質の土が、再び陶工の手によって洗練され、
ろくろの魔術によって息を吹き込まれる。
一見素朴なその土肌にひとたび触れると、
心が癒される感動をうけるのは、
呼び起こされた土の記憶が私たちに伝わるからなのかもしれない。